1、お客様のモーターコイル修理への悩みや要望

2009年1月にKDDIから譲渡された茨城観測局の高萩の32m電波望遠鏡は、VERAや国内VLBI観測網による観測に参加し、大幅な観測性能の向上に寄与している。

特に山口32m(国立天文台/山口大学)・鹿島34m(情報通信研究機構)・筑波32m(国土地理院)・臼田64m(JAXA)の各電波望遠鏡と共同して高感度のVLBI観測を行い、さらにハードディスクを用いた大量データ記録を行うことで、世界でもっとも感度の高いVLBI観測網を構築しており、これまでできなかった生まれたばかりの星や高温の星なども観測可能とし、天の川銀河系の進化についての研究推進が期待されている。

高萩の32m電波望遠鏡の駆動には、AZ(水平)、EL(仰角)に各2台、計4台の専用モーターを必要とし、予備機を含め合計5台のモーターを配備するが、1993年製が3台、2000年製が2台と経年劣化が著しく、これまで年1回程度発生する故障には応急処置で対応してきた。

しかし応急処置には限界があり、2015年4月以降、高萩32m電波望遠鏡は運用を停止しており共同観測に甚大な影響を与えているので、今回重度の修理が必要な1台を除く4台について、早急にオーバーホール及びモーターコイル修理を実施し、一刻も早い観測再開を行う必要が生じたとの連絡があった。

当該モーター5台全ては株式会社安川電機製であるが既に製造中止(設備・部品は2010年に全廃棄)され、現在は株式会社安川メカトレックが保守業務を受託し引き継いでいる。

しかしモーターコイル修理しようとしたモーターのうち、比較的軽微な1台を同保守業務受託者が診断したが、修理不能とされ電波望遠鏡の再開めどが立たなくなった。

2、悩みや要望に対するモーターコイル修理の提案内容

DC(直流)モーターのモーターコイル修理実績を有する弊社が、高萩の32m電波望遠鏡の故障診断を実施したところ、株式会社安川電機製DC(直流)モーターモーターコイル修理可能な可能性があるという結果を得た。

弊社は回転電気(モーター、発電機、補機類)全般の製作・修理・オーバーホール業務において、高い実績と信頼、即応性が評価されており、他社が不可能とした本業務を完遂できる能力を有すると認められ、モーターコイル修理にチャレンジした。

高萩アンテナ用 3.7 kW DCカップモーター(型番:UGCMED-37AA2SW-3.7kW-1750R-154V-27A)5台の修理を行う。
(1)以下の項目を実施検討する。
① 回転子技術調査:故障した回転子(1個)について銅線の構成分析
② コイル製作、納め・接続 :故障したモーターと同等な銅線コイル製作
③ バインド、ワニス処理:回転子について保護巻き、ワニス処理
④ 整流子調査・再現:回転子に付属する整流子1個について、銅バーと絶縁体の構成分析
⑤ 回転子バランス修正:ダイナミックバランス修正を行う。回転子を試験回転数1000rpmにて回転させ、反直結側、直結側の両側において、釣合い良さG6.3にてバランス修正を行い、バランスの誤差を3.7g以下に抑える事。また、回転軸のずれは±0.05mm以下に抑える事。
⑥ マグネット(6個)の製作・取り付け、固定子清掃
⑦ 軸受ベアリング(2カ所)交換
⑧ カーボンブラシ(6個)交換
⑨ 不適箇所パッキン交換
⑩ 外観洗浄・清掃、外観塗装

(2)以下の最終試験を実施検討する。
① 安定度測定:無負荷、常温、回転数1750rpm、電流27Aにて、1時間継続運転試験を行い、モーターの温度、振動、電圧が10%以内の変動範囲に収まっている事を確認する。
② 回転子バランス測定:回転子を試験回転数1000rpmにて回転させ、反直結側、直結側の両側において、バランスの誤差が3.7g以下に収まっている事を確認する。また、回転軸のずれは±0.05mm以下である事を確認する。
③ 絶縁抵抗測定:絶縁抵抗が、コイル-コア間で 100 MΩ以上である事を確認する。
④ 絶縁耐力測定:コイル-コア間にAC2500Vを1分間印加し漏電流が50mA以下である事を確認する。
⑤ 巻線抵抗測定:各相間での巻線抵抗値の差が3%以内である事を確認する。
⑥ 回転方向確認:回転方向が正しい事を確認する。

3、実際にモーターコイル修理をする上で注意した点、こだわった点

(1)株式会社安川電機製DC(直流)モーターオーバーホール対象の3台については、以下の項目を注意し作業実施した。
回転子ワニス処理、整流子切削、回転子バランス修正、固定子清掃、軸受交換、カーボンブラシ交換、不適箇所パッキン交換、外観洗浄・清掃、外観塗装

(2)株式会社安川電機製DC(直流)モーター修理対象の1台については、以下の項目を注意し作業実施した。
コイル製作検討、回転子ワニス処理、整流子交換検討、回転子バランス修正、固定子清掃、軸受交換、カーボンブラシ交換、不適箇所パッキン交換、外観洗浄・清掃、外観塗装

(3)既に株式会社安川電機製DC(直流)モーターは、製造メーカーでは修理不可能、修理部品入手不可。
現状で入手可能なのはカーボンブラシのみのため、モーターコイル修理作業前PDR、作業中PDRを繰り返し実施し、後戻り作業の発生させない作業を心がけた。
(そのためモーターコイル修理に半年以上の時間は要しました)

4、実際にモーターコイル修理をした後のお客様からのコメント

今回の高萩の32m電波望遠鏡用、株式会社安川電機製DC(直流)モーターのモーターコイル修理においてはモーター全てを均質完全に修理・オーバーホールできる能力が求められるが、今回これら条件を満たすことができた。
高萩アンテナのDCモーターが故障し長期運用を停止していたが、2015年12月16日に復旧した!感謝!との言葉をいただけた。